お子さんのないかたの相続が急増しており、2件に1件近くがお子さんのないかたの相続になっています。
本人が高齢で亡くなった場合、兄弟姉妹もすでに亡くなっている場合が多く、代襲した甥や姪が相続人となる場合が多くなります。
甥・姪が相続人となる場合、日頃あまり行き来のない従兄弟姉妹(いとこ)どうしで遺産分割協議をしなければならないため、時間も手間もかかることが多くなります。子どものころに顔は見たことがあるが、何十年も連絡をとっていないいとこに、手紙で要件を伝えなければならないことになる場合も。
また、お子さんがいらしても、縁がうすいケースも増えています。
幼少のころに両親が離婚し、同居した記憶もなく顔もほとんど憶えていない親が亡くなり、相続が発生したというご相談が、本年だけで3件ありました。
✅役所から「税金の滞納があるから、払うか放棄するか決めてほしい」と連絡があった。
✅債権者からの連絡で相続発生(肉親の死亡)を知った。
✅突然のことで動転してしまい、なにから手をつけたらいいのかわからない
同居もしくは身近だった親族の相続とはまた別の意味で、何十年来音信のなかった親族の訃報を耳にすれば誰しも少なからず動揺し、なかなか平静でうけとめることはできないものです。
実の子なのに、他人である債権者、役所の人、あるいは疎遠だったおじ・おばからの連絡で死亡の事実を聞かされるということは、連絡をとろうとしなかった不義理を責められているようでもあり、当人に責はなくともさまざまな複雑な思いが沸き起こってくることにつながります。
昔は「勘当」なんていう言葉も映画やドラマでよく使われましたが、いまの民法で勘当という制度はありません。
どんなに縁がうすく、ともに暮らしたこともなく、離れて「もういないもの」と思い込んで生きてきたとしても、実の親子は相続関係にあり、たがいの扶養義務も残っています。
ご自身の死後に、先述のような「思わぬ動揺」を抱かれて迷惑をかけたくない、というかたは、やはり元気なうちに対策しておくことが必要となります。
お子さんがなく甥や姪に死後事務(銀行口座の解約や遺品整理など)をお願いしなければならない場合や、縁薄い子がある場合には、ご自身の考えをまとめて公正証書遺言を作成し、その遺言のなかで、遺言の内容を実現する人(=「執行者」)を指定しておくことが重要です。
なお、きょうだいや甥・姪には遺留分はありませんが、子の場合は(縁遠くても)遺留分があります。子に何も遺さないという内容の公正証書遺言を書いたとしても、プラス財産があれば子(たち)は遺留分を主張できるので、遺留分に相当するものは渡せるように配慮しておかないと、遺贈するかたとお子さんの間で利害が衝突することも考えられます。
遺留分を主張できる期間は、「自分が相続人であることを知ってから1年間(あるいは相続開始から10年間)」なので、縁遠いからといって死の事実も伝える努力をしない(連絡先すらわからない)ままにしておくと、いつまでも遺留分を請求されるおそれがあることになり、死後事務をお願いした近しい人へ遺贈をしても、そのかたは「いつか遺留分を払わなければならないかもしれない」という懸念から、遺贈された財産の半額程度にしか手をつけることができません(※)。
※子は、結婚や再婚などなにかのきっかけで自分の戸籍をたどったときに、実の親の死の事実を知ることとなります。そのときから1年以内(もしくは被相続人の死亡から10年経過するまで)は遺留分請求されるおそれがある、ということになります。
遺留分のない甥・姪相続の場合も、お子さまのいないかたの場合も、どなたに死後事務をお願いするのかを元気なうちに考え、そのかたにお礼として何を残すのか遺言で考慮しておくことが、あとに面倒を残さない最善策です。
ご自宅で最期を迎えられた場合、日本人の平均的な家庭からは、2tから4tもの廃品(遺品)が出ます。遺品整理を業者にお願いするとしても、50万円前後の費用がかかります。
「銀行口座にそのくらいは残っているから」
と思っても、名義人の死後にその口座の預金を動かすためには、ご本人のほか法定相続人などの戸籍や住民票除票を集めるという膨大な事務作業が必要です。
専門職に戸籍収集等や相続関係図の作成、遺産分割協議書の作成を依頼すれば、数十万円の費用もかかります。
「この自宅を売却してその費用を捻出してくれればよい」、とお考えになるかもしれませんが、いま日本は人口が減っており、15%~20%の「家余り」の状態です。都市部であっても、古い家が建っているままでは、なかなか買い手がつかない状況なのです。
更地にすれば、土地の固定資産評価額(毎年の固定資産税の請求用紙に書かれてくる評価額)と同程度でならば売れる可能性もありますが、取り壊し費用や、場合によっては測量も必要となることがあり、測量費用も50万円~100万円近くかかることがあります(公道隣接の有無や近隣の状況によります)。
お元気なうちに、さまざまなケースを想定して、「こういう場合(たとえば施設入所を考える場合)には自宅をどうするか」、「この手続きについては誰に頼むべきか」を、考えておくことが大事です。
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