「葬儀のとき話をしてあるから大丈夫です」
相続のご相談でうかがうとまず、多くのかたが、このようにおっしゃいます。しかし、ご親族関係をおうかがいしているうち、「何事もなくは、済まないな」と予感する場面が多いものです。最近も、こうした事例が続きました。
法定相続人には、それぞれ配偶者や子の都合がある!
葬儀のときは、法定相続人それぞれが、ご自身の考えで「それでいいよ」と話しています。
ところが、相続の手続き(遺産分割協議の開始)は、仏式葬儀をしたかたであれば四十九日法要が済んだあとくらい、そうでない場合も告別式のあとしばらくたって落ち着いた頃に行われます。
通夜葬儀のときは、「同居してきた兄さんが、不動産を全部継げばいいわよ」、「預貯金もたいして残っていないんだから、今後の法要だの、固定資産税だの払ったらすぐなくなる」、「そうよ、預金も全部兄さんでいいわ」と、話はまとまっていました。ところが1ヵ月後……
そうは言ってたんだけど、夫がね……「遺留分ていうのがあるんだぞ。これから子どもの進学費用もかかるし、一銭ももらわないで引き下がるのはおかしい」って
そうなんだよ、うちも家内が……
これ以外にも、「相続が発生したと話したら、行政書士資格を持っている同僚がいろいろアドバイスをくれて……」、「知人に弁護士がいて、兄に全部と決めましたと話したら〝法定相続分は当然の権利だから主張はしたほうがいい〟を言われた」など、さまざまな事情で覆ることがあります。
法定相続人(きょうだいや、いとこ間など)では話がまとまっていたとしても、いざ遺産分割協議となれば、周囲のさまざまな事情が関与してきて、一筋縄ではいかないことが多いものです。
遺言執行者をつけた公正証書遺言を
もしも、親御さんの財産のほとんどが自宅不動産で、ほかに分けられる現金預金がないという場合。
親御さんがお元気なうちに、このようなことにならないよう、公正証書遺言を作成してもらうのがベストです。
せっかく遺言をのこしてもらうのであれば、その遺言の内容を実現する「執行者」を指定しておいてもらうことも忘れずに。
執行者の指定がないと、結局モメることも
執行者が指定されていないと、具体的な事務手続き誰がやるのか? ということを話し合わなければ先へ進みません。
そうこうするうちに、「この遺言の分けかたはおかしい」、「生前、親は違うことを言っていた」、「違う分けかたにしたい」など、先述のとおり法定相続人ではない周囲の人々の意見もまじり、待ったがかかることも。
じつは、遺言があっても、法定相続人全員が納得するならば、遺言の内容と違う分けかたにすることも可能なのです(遺産分割協議が整えば、遺言よりも優先される)。亡くなった人の遺志はもちろん尊重されるべきですが、数十年前に書かれている場合も多く、相続開始時点での家族構成や親族関係、あるいは経済状況にはそぐわない内容になっている場合も考えられるからです。
貴重な財産は、あくまで亡くなったひとのためにではなく、生きている人のために活用されるべきですので、「法定相続人全員が納得して遺産分割協議書に署名押印するならば」、遺言の内容とは異なる遺産分割協議が優先されるのです。
しかし執行者を指定あれば、先手を打って「この内容で進めてよろしいですね」と執行者が代表となって申し出ることにより、論議が紛糾することを、ある程度は防ぐことができます。
遺言の執行には、(良心的な執行者であれば)法定相続人への連絡や、遺言の内容によっては不動産を売却して分けるなどさまざまな手間がかかりますので、これを専門職に依頼すれば、費用もそれなりに(おおむね30万円程度~)かかります。もしも内容が自宅不動産の名義変更登記と、預金の分配のみで、さほど難度が高くなく、法定相続人のひとりがそれを実現できそうな(=事務手続きが得意で、平日に何度でも休暇をとることができる)場合は、身内である法定相続人の一人を執行者にすることで、費用ゼロで行うことも可能でしょう。