後見は、判断能力が衰えたときに本人を保護する制度
結論から言うと、「寝たきり状態」になっただけでは、成年後見制度(法定後見)を利用することはできません。後見は、“判断能力”に問題が生じた場合の制度だからです。
後見制度の概要
2000年にはじまった成年後見制度は、(日用品以外の)高額品を買ったり、施設に入所したり、不動産を売買したり、あるいは親族の相続が発生したとき遺産分割協議書に署名捺印したりするための判断能力が不足したときに必要な制度です。
寝たきりの状態になられていても、「契約」や「捺印」するとき「内容を理解してYes,Noの意思表示がしっかりとできる」状態でいらっしゃれば、成年後見制度を利用する段階ではありません。
成年後見制度は、認知症や精神疾患により判断能力が不足してしまったかたの財産管理や事務処理を、後見人が代わっておこなうための制度です。
障がいがおありでも、筆談などで意思表示ができる場合は、本人の意思と権利を尊重するため、後見制度は利用できないことになっています。
後見相当かどうかは、医師の診断書で
(場合によっては鑑定をへて)
家庭裁判所に申し立て、審判を受けて発効する「法定後見制度」では、後見人をつけることが妥当であるかどうかは、申し立ての際に添付する医師の診断書に基づいて家庭裁判所が判断します。
この診断書を書く医師は、精神科の医師である必要はなく、かかりつけの耳鼻科や内科の医師でもよいことになっています。日常的に接している医師であれば、半年前、三か月前と比較して認知状態が進んでいるかどうかを判断できるとの理由からです。
申し立ての際に、ほんとうに認知症を発症しているのかどうかが疑わしい場合には、あらためて精神科の医師による鑑定を要求されることもあります。
元気なうちに「私を後見する人」を選んでおく
=任意後見制度の活用
前段は法定後見制度の概要ですが、このほか、元気なうちに、「将来、私の判断能力が衰えたら、この人に世話をお願いする」という約束を、公正証書で交わしておく任意後見制度もあります。
こちらは家庭裁判所への申し立てではなく、依頼するAさんと、依頼されるBさんとの個人間の契約で、AさんとBさんが揃って公証役場へ出向いて契約書を作成します。
任意後見の場合も、じっさいに発効させるかどうか(=後見監督人の選任)については、家庭裁判所が客観的に判断して決めます。
また任意後見では通常、元気なうちから「月に一度は訪問する」、「週に一度は電話をかける」といった“見守り契約”をセットにする場合が多いです。日頃から頻繁に接触していないと、依頼者が認知症になっている可能性が高まっていることがわからないからです。
見守りと同時に、“代理契約”をセットにすることも考えられます。
Aさんに判断能力はあり、まだ任意後見は発効していない状態でも、たとえば足を怪我して長らく動けないといった場合に、各種支払いや預金の管理を、後見人候補者であるBさんにお願いできるようになります(1回ごとに委任状を作成しなくても済む)。
後見制度を利用せず代理を続けると……?
従来、高齢になった親御さまが不要と思われる高額品を次々買ってしまうなどの理由から、預金通帳と銀行カードを子が預かって(ときには奪い取って)管理するようなこともおこなわれていました(いまもおこなっている場合があろうかと思います)。
しかし、後見制度を利用しないでそのようなことを続けますと、他の法定相続人などから「不法な権利侵害」と言われかねませんのでご注意ください。