遺産分割協議書は自分でつくれますか?


法定相続人が数名で仲もよく、「不動産は兄へ、預貯金は弟へ」などシンプルな内容の相続であれば、ネットで検索したひな形に従って作成しても手続きがスムーズにできる場合もあります。

しかし、いざ不動産の名義変更登記をしようと法務局へ行ってみたら、

遺産分割協議書の記載内容に不備があるとして補正を求められることもあります。何度も会社を半休にして法務局やきょうだい宅を往復した挙句に、「やっぱり専門家に頼もう……」と、何週間もかけ苦労して集めた戸籍一式を抱えてお見えになり、「こんなことなら、最初から頼んでおけばよかった」とおっしゃるかたもいらっしゃいます。

また、税務署への相続税申告が必要な場合に、記述が不足していると無用な税務調査を受けることになったりする場合もありますので注意が必要です。

ご自身で遺産分割協議した失敗例

きょうだい2人での相続。主たる財産は親御さまの自宅土地建物のみ。基礎控除の範囲内でした。
兄は事業を始めたばかりで預金がなく、弟はサラリーマンですが預金は数百万。

二人とも借家住まいなので、どちらかが近い将来、実家に移り住もうと考えましたが、双方とも不動産の価値の2分の1に当たる現預金を持っていないので、代償分割(一人が不動産の所有権を相続する代わりに、他の相続人の相続分の価値に相当するぶんを現金で支払う遺産分割の方法)をしたくても、すぐには実現できそうにありません。本来は相続に関係のない双方の妻も絡んで、話し合いはなかなかまとまりませんでした。

そんななか、知人から「相続には10ヵ月の期限がある」と聞いて焦り、「とりあえず」土地も建物も2分の1ずつ共有名義で登記してしまいました。

約1年後、兄の商売は軌道に乗り、代償分割の資金ができたので、遺産分割協議のやり直しをしました。あらかじめ、街の無料法律相談で弁護士に「遺産分割協議はいつ、何度やり直しても構わない」と確認済みだったのです。

ところが、再分割協議による財産の異動は、よほど気を付けて行わない限り、税務署や法務局から見れば「弟が自分の持ち分1/2を現金で兄に買ってもらった」とみなされ、登記原因も「売買」となり、譲渡所得税の課税対象となります。相続したあと何年たってからでも、法定相続人どうしの間でなら何度でも財産のやり取りができるということになると、ふつうに売買の譲渡所得税や贈与税を納税している人から見ると、不公平なことになるからです。

相続で取得した不動産は、購入した不動産と違い、前の名義人の所有期間を引き継ぐことができますので、1年足らずで持ち分を手放しても譲渡所得税率の高い短期譲渡にはならず、税率半分程度の「長期譲渡」とみなしてもらえます。しかし、それでも税額は、不動産の評価額の約20%(所得税15%+所得税の額*復興税2.1%+地方税5%)ですから、数百万程度にはなります。

軽い気持ちで「とりあえず」共有にしてしまったばかりに、本来は納税する必要がなかった譲渡所得税を何百万も払うハメになったのです。
同様のケースでも、錯誤無効として先の登記を取り消すことができる場合もなくはありませんが、ほんとうにケースバイケースです。

この問題の発端は、先述の赤字部分にあります。
相続手続きには、期限などありません。このケースは相続税の基礎控除の範囲内ですので、相続税の申告に絡む問題もなく(←ちなみに10ヵ月というのは、この相続税の申告期限のことです)、兄の商売が軌道に乗るのを待ってゆっくり分割協議をすれば済んだ話です。

このようなことにならないためにも、ご自身で作成された遺産分割協議書は、少々の相談料を支払っても、署名押印前に専門家にチェックを依頼するほうがよいでしょう。