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台所にベッドを置く、という発想がありませんでした

お母さまは脳疾患のため呂律(ろれつ)がまわらず、会話がうまくできない状態でした。娘さん(50代)はパートとはいえ仕事もあり、介護と仕事で疲弊しきっていらっしゃいました。このうえリフォーム工事の費用がかかる…とのご心配で、FPとしてご相談を受けました。

ご自宅へうかがうと、たしかに1Fの部屋は、仏間とお風呂、ダイニングキッチンという構造で、仏間はときどき週末に戻ってくる娘さん一家が寝泊まりに使うので、そこを介護専用にはしたくないとのこと。2Fはご主人と息子さんの部屋で使われていました。

しかし、ダイニングキッチンがL字型でとても広く、ベッド1つ置く余裕がありました。お風呂も近いしうってつけのこのスペースに、なぜ着目されなかったのでしょう?

「ここにベッドを? あぁ…そんなことが可能だとは。台所にベッドを置く、という発想が、そもそもありませんでした。」

そうしたほうが、隔離されるよりも家族の声がいつも聞こえて、お母さまも喜ぶはず。来客があるときは、「お母さんごめんね」と言って、一時的にベッドごと隣の仏間まで転がせばよい、とご説明しました。

その方法ならば、仏間の畳の一部をベッドが置けるようにすることと、ダイニングキッチンとお風呂、仏間との間の仕切りと1Fのトイレをバリアフリーにするだけで済み、工事費用も100万はかかりません。

相談が終わると、相談者はこれまで3回の面会で見たことのないほど明るい表情をされていました。

費用の心配よりなにより、寝たきりになったお母さまをどこで世話するか、ということに固執してしまい、まるでモノを扱うかのようにしていたことへの違和感や罪悪感がすっかり剥げ落ちてすがすがしい気持ちになれた、とのことでした。

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