2023年になって、宗教法人の規則変更のご相談を多数いただくようになりました。
おもに、駐車場や不動産の賃貸をしているお寺や、葬祭ホールを建てて貸しホールにしている宗教法人さまが、規則のなかに「事業」の項目をもうけていらっしゃらない場合です。
東京都生活文化局では、収益事業をおこなっているのに規則に「事業」の項目を追記しておらず、また収益事業をおこなっている旨の登記がおこなわれていない寺社を探し、次々と法令準拠するよう規則変更を求めているのだそうです。
根拠条文は、こちら。「宗教法人法」から。
(設立の登記)
第52条 宗教法人の設立の登記は、規則の認証書の交付を受けた日から2週間以内に、主たる事務所の所在地においてしなければならない。
2 設立の登記においては、次に掲げる事項を登記しなければならない。
一 目的(第6条の規定による事業を行う場合には、その事業の種類を含む。)
宗教法人法52条2項の1
さて、「第6条の規程による事業」とはなんでしょう?
(公益事業その他の事業)
第6条 宗教法人は、公益事業を行うことができる。
2 宗教法人は、その目的に反しない限り、公益事業以外の事業を行うことができる。この場合において、収益を生じたときは、これを当該宗教法人、当該宗教法人を包括する宗教団体又は当該宗教法人が援助する宗教法人若しくは公益事業のために使用しなければならない。
宗教法人法第6条
非常に細かい規定、しかも宗教法人法という法学部でも資格試験講座でもほとんど教わることがない法律なので、ベテラン司法書士でもご存じないかたがほとんどです。
つまり、提携司法書士がついていても、見落とされがち。
しかし、公益事業以外の事業(つまり、収益事業。ハッキリそう書いてよ、と言いたくなりますね!)を行っていたら、「目的」を登記する部分に追記で登記しなければならない、と第6条には書かれているのです。
登記情報をとってみると、正しく登記された場合はこんな感じになります▼
しかし、「公益事業以外の事業」をはじめるときは通常、規則の目的のところにではなく、最後のほうに別立てで章をつくって規定を置くのがふつうです。
そのため、たとえば代表役員交代などの登記を担当された司法書士の先生も、寺院規則の序盤に書かれている「目的」と登記情報が合致していれば、よもや「登記漏れがある」などとは気がつかれないでしょう。
いま、東京都では本件の登記漏れ(法定されていますので、法令違反です!)について、厳しい追及が始まっています。
一昨年あたりに関東信越財務局がおこなった「墓地の使用契約書に収入印紙を貼っていますか?」という調査につづき、宗教法人に対する課税への動きの一環ではないかと私は感じております。
弊事務所には、司法書士さま、税理士さま、弁護士さまからの規則変更のお尋ねが多数来ております。
寺院規則の変更、それもうしろのほうに章立てをして「公益事業以外の事業」を追記するだけですから、新旧対照表をこしらえて、認証を受けるだけ。
ところが、包括法人(宗派の本山)がある場合、包括法人と都道府県庁の双方の認証を受けなければなりません。
お寺さまが自ら取り組もうとなさる場合、先に包括法人さまと連絡なさって認証をうけ、それから都道府県庁に相談されることが多いようです。
文化庁がつくっている宗教法人運営ガイドブックには、フローとして「法人内部の手続き=責任役員会と包括法人の証人(リンク先のPDF15ページ)が先」と書かれているからです。
しかし、都道府県庁は法令の定めに縛られますので、ダメなものはダメ。
宗派の承認(認証書発行)のほうが、形式的にはゆるやかなのです。
そのため、じっさいの承認手順としては包括法人の認証が先で、包括法人の認証書がないと都道府県には規則変更申請ができないのですが、都道府県庁とのすり合わせを先に行うほうが、はるかにスムーズです。
このことをご存じないまま、包括法人におうかがいを立て、いろいろな指示のもとようやっと認証書をもらい、これを都道府県庁へ提出すれば即座に認証してもらえると思いきや、とんでもない。
新旧対照表のココを直して、あそこを直して…… といろいろ指示され、表現のみならず内容にも影響するような場合は、再度宗派の承認を受けなければならない場合もあります。
包括法人のほうでもこのような差し戻しが増えると事務作業が増えてしまうので、昨今は「都道府県には先に相談なさいましたか?」と声かけしてくださる宗派もあります。
🔶【ポイント】先に、都道府県庁と変更内容の相談をしてから、始めましょう!
いざ規則変更のご依頼をいただいてお寺へうかがうと、まず「規則の原本」がないことが多いです。
規則の原本とは、都道府県知事の赤いハンコがつかれた「認証書」とセットになっているもので、モノクロ印刷の写しや、先代住職がご丁寧にワープロに打ち換えたものであってはなりません。
規則変更をする際に、「現行規則の原本の写し」の提出が義務付けられている都道府県も多いので、ない場合は先に、「規則謄本の請求」を都道府県にすることとなります。
ご住職から、
なんだ、都道府県が写しを持っているなら、簡単じゃないか。
最初っから写しをもらって来てくれたらよかったのに。
なんて言われることもあります。
しかし、宗教団体が法人格を得るためには「規則の認証」が要件となっているのですから、認証された証拠である宗教法人の規則原本は、法人であるための必須要件。
紛失している場合は、「理由書(「いついつ、大改修を行った際に紛失したと推察されます」などもっともらしい理由を述べた、いわゆる「始末書」)」を作成し、代表役員が都道府県庁に出向いて丁重に頭を下げなければ謄本を発行してもらえないものなのだそうです(2020年来のコロナ蔓延防止の影響により、出向いて頭を下げなくても郵送で請求できるようにはなりましたが、ほんらいそのくらいしていただくものだ、としばしばお叱りをうけます)。
規則謄本を紛失していたり、毎年義務付けられている「備え付け書類の写しの提出」をしばらく怠っていたりすると、
お寺の運営をご住職本人がしていないのではないか
墓地販売している業者に任せっきりなのでは?
と懸念されてしまうことさえあります。
また、宗教法人が公益事業以外の事業を行うことは、〝財産の処分〟に当たるため、〝公告〟も必要です。
宗教法人の目的は、儀礼の遂行と教義にもとづく布教です。
それ以外の目的のために境内地を利用するとなると、儀礼などの本来目的のために使うべき財産を〝処分〟したことになるのです。
(財産処分等の公告)
第23条 宗教法人(宗教団体を包括する宗教法人を除く。)は、左に掲げる行為をしようとするときは、規則で定めるところ(規則に別段の定がないときは、第19条の規定)による外、その行為の少くとも1月前に、信者その他の利害関係人に対し、その行為の要旨を示してその旨を公告しなければならない。但し、第3号から第5号までに掲げる行為が緊急の必要に基くものであり、又は軽微のものである場合及び第5号に掲げる行為が一時の期間に係るものである場合は、この限りでない。
一 不動産又は財産目録に掲げる宝物を処分し、又は担保に供すること。
宗教法人法第23条第1項
🔷弊事務所に規則変更をご依頼いただいた場合、公告文案の作成から初日・ナカ日・最終日の写真撮影のご確認、公告証明書の作成まで、すべてお任せいただけます。
都道府県庁がオッケーすれば、その内容を包括法人に出すだけでスムーズになるか? といえば、ノーです。
宗派によっては、都道府県庁が求める印鑑と、包括法人が求める印鑑が違っている、ということもあります。
全国的に宗教法人以外のすべての法人は、法務局へ届け出た印鑑こそが法人の実印に相当するものであり、「公印」であろうと思います。
ところが、包括法人のある宗教法人の場合、包括法人は「住職の実印を公印とする」などと別の定めをしている場合があります。
そうなると、都道府県がオッケーした通りの責任役員会議事録や各種書類(公告証明書等)を作成しても、包括法人では「もうひとつハンコが必要」と言われてしまい、ご住職にもう一度、押印いただかなければならなくなってしまいます。
ほんとうに昨今、宗教法人のコンプライアンスが強く要求される時代になっていると実感します。
すでに多くの行政庁は、寺社を〝役所代わりの信頼できる場所〟とは思わなくなっている傾向がみられます。
詳しくは、こちらのガイドブックをお読みください▼
さて。宗教法人が「公益事業以外の事業」(つまり収益事業)を行う場合。
責任役員会等(法人規則によっては総代会なども)を開いて規則変更を認めてもらい、「公告」を実施する。
このあたりまでは、他士業の先生がたにも想像いただけると思います。
新規則の全文と、新旧対照表を用意するのも、手引きをみればだいたいわかります。
ただこの新旧対照表。一般的な条文改正のようにスムーズには、いかないものです。
宗教法人法は戦後すぐにできた法律なので、多くの宗教法人は昭和26~28年ごろに設立認証されています。
そのころから一度も規則変更を行っていない場合、縦書きの旧漢字かつ「法類」などの専門用語がふんだんに使われており、読み解くことも容易でないことがあります。
また、「公益事業以外の事業」の項目を「追記するだけ」であれば新旧対照表の「旧」の部分は空白になりますが、何十年間も規則変更が行われていない場合、包括法人からも都道府県庁からも、「このさい新漢字採用して横書きにするなど、全文にわたる変更をご検討ください」と言われてしまいます。
もちろん任意ですが、きょうび縦書き旧漢字遣いの規則のままでは、責任役員になる人も読み解くことができませんから、内容を理解しないままの運営になってゆくことから、都道府県庁からの信頼も低下してしまいます。
全文書き換えといっても、新旧対照表に全文を記す必要はなく、「旧漢字を新漢字に置き換える」と欄外に示せば足ります。
しかし、せっかく全文書き換えるとなれば、「事業追加」のほかに、責任役員の人数を減らしたいとか、総代のなり手がいないから総代会を解散したいとか、包括法人の地番表記が変わってしまっているとか、いろいろと追加の変更箇所が出てきます。
この場合は、新旧対照表において「旧」の部分を入力するのに相当の苦労をされると思います。
ケースバイケースですが、ほかにもさまざまな書類作成が必要です。
事業ごとの運営方針を定めた「運営規程」、収益事業の行われる場所を示す添付書類(図面等)。
また、先に述べたように「規則謄本の請求」や、責任役員が欠けていたらその補充もしなければならない場合もあります。
🔷弊事務所にご依頼いただければ、これらのすべてを代理作成することができます。
※責任役員さまの押印や、包括法人への書類提出は、法人さまにしかできない場合がほとんどですので、お任せいたします。