遺言や相続のことを専門家に相談したいが、「誰に相談するのがよいかわからない」というかたが多いようです。
日本では法律系専門職が非常に細分化されており、何をするにも、厳密にいえば複数の専門家に依頼しなければ用が済みません。
たとえば、あなたが古家を相続し、「建物を取り壊してビルを建て、1F部分で店舗を営みたい」と思ったとき、土地の所有権移転登記は司法書士に、建物新築表示登記は土地家屋調査士に依頼することになります。また、店舗を営むに当たり株式会社を設立するには行政書士に定款作成を、司法書士に設立登記を、社員の社会保険手続は社会保険労務士に、法人税の申告は税理士と、じつに多くの専門職と関わらなければなりません。
これでは、市民の利便性に資しているとは言い難い状況です。
そこで、弁護士は司法書士・行政書士の仕事を包括して行えますし、公認会計士は税理士登録があれば税務もでき、さらにいえば行政書士の仕事は、弁護士・司法書士・税理士も行政書士登録さえ行えばできる、というように法定されてはいます。
しかし、包括して業務をこなせる弁護士など上位の専門職は、ご承知のとおり報酬も高額です。弁護士先生になんでも「まとめてお願いします!」と言えるのは資力のある人だけ。
そこで近年、裁判所に関係する業務であっても、少額訴訟であれば司法書士のうち一定の研修を受けた人もできる、行政不服申し立ては行政書士のうち一定の研修を受けた人もできる、というように、細かな法改正もなされてきました。
しかし「この間は司法書士の先生が訴訟も引き受けてくれたよ」と紹介されて行ってみると、少額訴訟の枠におさまっておらず無駄足になってしまったりと、市民目線からすれば、かえって複雑化してしまった印象も否めません。
弁護士・司法書士・税理士・行政書士など俗にいう“士業者”には、それぞれ専門分野があります。
行政書士は、「他の専門職の担当として列挙されたところ“以外”の役所に提出する書類」を担当しています。
他の専門職はそれぞれの分野の法律に深く精通しておられますが、行政書士は憲法・民法から行政法・行政手続法までいわば“浅めに広く”学んでいるといえます。
裁判所・税務署・法務局など高度な専門知識を要する部分は他の専門職に譲り、横断的知識で市民の皆さんと各専門職との間の橋渡しをする「ハブ」的な存在であると、私は認識しております。
たんに文章を書くのが得意だから、公文書を代筆できたら少しは収入減になるんじゃないかというところから受験を考えてしまった私は、まさに「代書人」カンカクで、法律系の資格だということも知らずに、行政書士試験に挑戦しはじめてしまいました。
合格率が、例年の10%超から突じょ2.8%の狭き門となった年に受けてしまい、初年度は1問足らずに不合格。翌年は一般常識のIT関係の問題で1問足らずに足切り。なんと3度もかかってやっと合格した劣等生です。
3年間通して、こちらの行政書士試験突破塾で法律を完全初学者の状態から学び、最後のブラッシュアップに伊藤塾の直前対策講座で学びました。
事務所名が変わっているせいで、「許認可が出やすいようにと、こんな事務所名にした人もいる!」と、最近でも話題にしてくださっている先生がいらっしゃるようで、伊藤塾出身のかたと名刺交換すると、「あぁ、あのこちらOKさんですね!」と言われます(笑)
人生100年時代。友人知人の相続を手伝うだけでも、大いなる貢献となります。
法律の枠組みを知ることで、社会を見る角度も変わります。
また行政書士は、各士業の先生がたと協力しながらでないと業務遂行できないために、経験を積めば積むほど、他士業の専門分野についても「博識」になっていきます。
とりわけ税務などでは時限立法による特例が多く、「お父さんの相続のときはこうだった」としても、数年後のお母さまの相続では、制度が大きく変わっていることもあります。
税理士の先生にお願いすれば、節税などの特例部分は万全かもしれません。ところが、税理士の試験科目には民法がないので、民法897条「祭祀の承継」のことや、成年後見制度のことなど、二次相続まで(ご夫妻のお一人が亡くなってから、残されたかたのご相続まで)の間に必要と思われる準備についてのアドバイスは、得られない場合が多くなります。
開業当初、司法書士の先生がOKした遺産分割協議書案を税理士の先生に見せたところ、「預金の果実(利息)についても、誰の取り分になるのかを書いておかないと、これだけ高額の相続では、あとあと問題になる」など、別な観点からのアドバイスをいただいたこともあります。
単独では最後まで包括して業務遂行できない行政書士だからこそ、専門分野の知識を横断して「博識」になれている=士業の「ハブ」として機能できるのです。
行政書士の前身は、1872(明治5)年の太政官達「司法職務定制」による代書人制度にあると言われます。市町村役場や警察署等に提出する書類の作成を、“行政代書人”が行っていました。当時は試験制度もなかったわけですが、明治30年代後半に「代書人取締規則」が警視庁令や各府県令で定められるようになり、1920(大正9)年11月、内務省が「代書人規則」を定め、これら監督規定の統一化が図られました。
戦後になって、「日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律」により、1947(昭和22)年12月に「代書人取締規則」は失効しました。その後、住民の便益に向け法制化を求める社会の動きを受け、1951(昭和26)年2月10日、「行政書士法」が成立し、行政書士制度が発足しました。
明治初年から行政書士法成立までの間に、他の法律専門職についての制度も整えられていきました。
公証人については、1886年にフランス流の「公証人規則」、1908年にこれをドイツ流に直した「公証人法」ができました。
弁護士については、明治初期にフランスの代言人(advocat)を手本に創設され、「代言人(だいげんにん)」と呼ばれていました。1893年に近代的な「弁護士法」が制定され、「代言人」に代わって「弁護士」という名称が使われるようになりました。現在の弁護士法が整えられたのは、戦後の1949年です。
戦後、1948年に「公認会計士」、1950年に「司法書士」(前身の「司法代書人」は1919年~)、1951年に「税理士」(前身の「税務代弁者」は1912年~)と「行政書士」の業務が法制化されていきました。
行政書士は、法廷に立つことができません。調停に代理出席したり同行したりもできません。争いになれば、顧客を弁護士に紹介しなければならないのです。
だからこそ、行政書士の作成する「遺言書」や「遺産分割協議書」、「契約書」等は、「将来、争いにならないこと」を主眼として書かれます。
たとえば、公正証書遺言の条文のあとに、「付言(ふげん)」という一般的なメッセージを付加することができます。法定相続分とは異なり誰かに多く(少なく)遺すことについて、思いや理由を書き残すもので、「将来モメないため」にはもっとも大切な部分です。
他の専門職の先生とお話ししていると、「付言なんてものは内容を曖昧にするからつけるべきでない」、「法律家であれば、条文ですべてカタをつけるべき」と主張されるかたも少なくありません。しかし、行政書士の事例研究会などで「付言はいらない」と主張する人はほとんどいません。
現実に、専門家に公正証書遺言の作成をお願いしたのに、いざ相続の時点で訴訟にまで発展したという事例について内容をうかがうと、付言がついていないケースがほとんどです。
契約書でも、日本の契約書は数枚で終わってしまうものも多く、「ここに列記されていないことについては甲乙協議のうえ…」などと包括して先送りにする条文が加わりますが、アメリカなどではそもそも契約書の枚数が日本の何倍にも及び、将来争いになるであろうと予測されるありとあらゆる事態に備えて条文化するのが通例です。
ことに、法人と私人(外註者)のように力関係の強弱がある場合に、強い立場の側から依頼された契約書では、どう考えても相手方にとって不利益と思える条項が多くなる傾向があります。法的には有効であったとしても、そのままでは将来、トラブルになることが予想されます。
依頼人のことだけを考えれば、そのまま捺印したほうが有利です。しかし、行政書士の中には、「相手方を苦しめすぎない条項を加えたほうが、将来トラブルになりません」とアドバイスする人もあります。
遺産分割協議書なども同じです。「あいつになんか一文もやりたくない!」とおっしゃる相続人の話を何時間でも傾聴し、どうしてそのような思いに至ったのかを把握したうえで、相手方にも遺留分請求権があることを説明し、「相手に何も遺さないと遺留分請求の可能性が残り、1年後まで(相手が死亡の事実を知らない場合は未来永劫)遺産のうち遺留分の部分については手をつけられないことになる」とお話しすると、たいていは、遺留分に近い金額を相手方に渡す決断をしてくださいます。
葬儀にすら呼ばなかった相続人と、遺産分割協議書への捺印で対面することとなります。双方の言い分を行政書士がそれとなく相手方へ伝えることで、長年のわだかまりがとけるケースもあります。
TBS日曜劇場「特上カバチ!!」で、中村雅俊扮する大野勇所長は、「依頼人のことだけ考えろ」が口癖。ちょっと悪役の女性行政書士住吉も、相手方を地獄の底までたたきのめしても依頼人を守るタイプの行政書士です。いっぽう、桜井翔扮する補助者の田村は、「双方ともまるくおさまる方法はないのか……」と苦悶します。
現実の行政書士は、どちらのタイプが多いのでしょう?
少なくとも私の所属している東京都行政書士会板橋支部で事例研究会での発表などを聞いていますと、東京23区の端っこに位置するのどかさもあるのでしょうが、桜井君タイプの、“双方うまくまとめる”先生のほうが多数である印象があります。
私自身、行政書士向け研修会等では、「他士業とのグレーゾーンは潔く手放し、争う代わりに他士業と情報を共有して、最も広く博識な士業者をめざしましょう」とお話ししています。
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