スマートな隠居を、あらゆる世代へ

両親のうちひとりが認知症で、認知症でないほうの親が先立ったケース。公正証書遺言さえあれば… という残念なご相談がありました。

母が亡くなり、認知症の父と子2人(兄弟)が相続人になりました。

父が認知症のため、周囲から「遺産分割協議が大変だよ。成年後見人をつけないと相続手続きできない」と聞かされたので、兄は弟と相談して、銀行預金が凍結される前に、ATMで小分けにして引き出し、半分ずつ自分たちの口座へ移してしまいました。

残るは自宅不動産。半分が亡き母名義で、半分は認知症のお父さん名義です。

この時点で「どうすればいいですか?」と相談がありました。

どうにもなりません。遺産がすべて現金であれば、きっちり法定相続分で分けて遺産分割協議なしでも済ませられますが、不動産がある以上、きっちり法定相続分に分けることが難しいので、お父さんの代わりに遺産分割協議に参加する成年後見人を選任してもらうしかないのです。

しかし、成年後見制度は、一度申し立てたらやめることができません。

父はすでに施設入所しており、費用は父の口座から引き落とされていてこれまでは何の問題もありませんでした。

成年後見制度を利用すれば、帳簿につけるべき金銭の出し入れもほとんどないのに、弁護士などの後見人が選ばれ月当たり数万円の後見報酬が父の口座から支払われると聞きました。

「なんとか後見制度を利用しないですませる方法はありませんか」と相談されたのですが、お父さんの相続が発生するまで自宅の名義変更登記をしないで放置するくらいしか、すべはありません。

しかも、引き出した預金の額がそれなりに大きかったので、自宅について評価額を80%減にする小規模宅地の特例を使わなければ、課税財産が基礎控除の範囲に収まりません。

つまり、名義変更登記をしないで放置することは、相続税の申告漏れに該当してしまうおそれもあり、また不動産の名義を動かさなければ預金の動きをチェックされることも免れてしまう可能性はありますが、7年以内に父が亡くなった場合、さかのぼって金銭の出入りをチェックされます。

故意に相続手続きを行わなかったことが露呈すれば、 今回、遺産分割協議もせずに母の口座から子たちの口座へ移した預金についての申告漏れで重加算税を課されるおそれも。

そもそも、親の口座から子の口座へ財産を勝手に移すことは横領であり不法行為です。

公正証書遺言さえあれば、必要のない後見申し立てをしなくても済んだはず。

遺言の必要性をひしひしと感じた一件でした。