スマートな隠居を、あらゆる世代へ

真の公益は、守られないのか

境内地の一部土地が、先々代住職の個人名義になっていたのが見つかりました。
いまの住職は近い将来、この土地にかかる部分に檀信徒会館を建てるなどして活用したいと考え、個人から宗教法人へ名義変更登記をしたいとのこと。所得隠しでも税金逃れでもなく真に公益利用のためだったので、租税特別措置法第40条第1項の承認申請(※)をして非課税での寄進ができるはずでしたが……

[※註] 個人が法人へ無償で土地を譲渡した場合、租税回避目的での無償譲渡である場合も多いので、市場価格での取引があったものとみなして算出される譲渡所得税が課される。しかし、ほんとうに公益のために土地を寄附しようとする場合にも税がかかってしまうのでは不都合だろうということで、一定要件のもと、この譲渡所得税を非課税にするのが、「租税特別措置法第40条第1項の承認申請」である。

3~4世代にわたる相続。しかも先々代住職は福祉施設も運営する社会貢献意識の高いかたで、養子を何人もとってお寺で養育していらしたため、関係人の数が百人近くになりました。
提携司法書士とともに、分厚い戸籍の束と何十冊もの遺産分割協議書を作成し、2年がかりでようやく存命の相続人お一人の名前に名義変更登記を済ませることができました。

「それではようやく寄進ですね。譲渡所得税を非課税にするための手続き確認に、まずは県庁の学事課へ行きましょう」

と、ご住職(包括法人への確認と、非課税にする申請書を書いてもらう税理士への依頼を担当)、司法書士(名義変更登記を担当)、行政書士の私(規則変更を担当)の3人で相談に行ったのが、昨年の末。

「責任役員の数を増やし、監事を置いて、評議員も選定してください。評議員は、お寺の世話人さんでも構いませんよ。ただし、それぞれの役員のうち親族は1/3を超えない、という条文を入れてくださいね」

他府県で聞いたと同じ要件なので、年末年始に世話人さんや檀家さんにお声がけしたらすぐ整いそうですね、と言って年を越しました。

責任役員やその親族からの土地の寄進は不可に!

お寺の世界の春先は、正月~お節句~花まつり……と非常にご多用です。
機関設計(責任役員の増員や、評議員の新設)の見通しについてなど、「GWが過ぎたら、うかがってみよう」ということで、すっかり日が過ぎていました。

学事課で年末に話を聞いたときにも、この件で法改正があるなどという情報は皆無でした。
「2年以内にその土地を宗教法人の用に供する見通しがたってからでないと措置法40条の承認申請はできませんから、急がなくていいですよ。規則変更案ができたらご連絡ください。担当者は年度が替わると違っているかもしれませんが、メールアドレスは同じです」と言われていました。

いよいよ6月を目前に、「やるならお盆前の6月しかない!」と住職にメールをしようと、再度税務署のサイトで要件確認をしてビックリ。

平成29年4月に「公益法人等に財産を寄附した場合の譲渡所得等の非課税の特例の「承認特例」の対象が拡充されました!

というタイトルのパンフレットが新たに作成されており、見てみると…

「拡充」とは「該当しないこと」の要件が拡充された内容で、「非課税になる要件が拡充された」のとは正反対。

なんと平成28年のパンフレットにはなかった要件が新設され……

要件1 寄附をした人が寄附を受けた法人の役員等(理事、監事、評議員その他これらの者に準ずるもの)、及び社員(公益社団法人の場合)並びにこれらの親族等に該当しないこと

いままでは、各役員(責任役員、監事、評議員それぞれ)のうち親族等が1/3を超えてはNGという要件だったが、上記「要件1」のように改正された。

社団法人や財団法人の場合、資産家等が社会的地位維持のため(名刺を持ちたいがため)に理事に就任しているケースも少なくない。そうした人が、たとえば子がないきょうだい等から土地を相続するのに、土地を売らずに相続しようとすれば数百万円の相続税を現金で払わなければならないが、措置法40条第1項を使って法人へ寄附すれば、支払う税額が発生しないうえに自分が居座る立派な部屋を持てる!というストーリーも考えられた。
このストーリーのようなケースについては、役員等の親族からの寄附じたいダメだよ、としてもらえば、「資産家とその親族だけが太り続ける」格差拡大に歯止めをかけることにもなろう。

しかし、宗教法人の場合はどうだろう。

「墓を継ぐ甥や姪はみな都会へ出て行ってしまったし、自分には子どもがないから家土地も使うものがいない。だったら、最後の看取りを住職にお願いして、お墓へ入れていただいたあとは、お礼として自宅の土地を寺へ寄進したい」

なんていう案件が、これからは多数出てくると推察される。

そして、こういう場合に土地の寄進まで考えるような人は、責任役員くらい務めている可能性が高い。

「過去に責任役員だった人、というのは要件にないので、辞任してからなら承認を受けられますか?」
と、税務署の資産課税部門に電話確認してみた。

「非課税目的で責任役員を降り、すぐに返り咲くようでは困るので、責任役員を辞めた経緯などについて詳しくお聞きすることになります。また、数年後に役員に返り咲いた場合は、承認を受けた後、承認要件に該当しなくなった場合として、追徴課税となる可能性が高いです」
とのことだった。

デービッド・アトキンソンは『新・所得倍増論』(東洋経済新聞社)のなかで、「日本人は公益をはき違えている」と言っている。

要するに、日本企業の「公益」とは、法人が利益を得るよりも公を優先させるということではなく、日本社会全体にマイナスの影響を与えても、「効率を追求しない」という自分の利益(私益)を優先しているという意味合いが強いような気がしているのです。(同著、p.248)

何も新たな価値を生み出さないのに、不動産を貸しつけ不労所得をえながら「こんなに安く貸してやっている」と言い、「そのうえ公益法人を運営して社会貢献もしている!」と主張して相続税も贈与税も払わず私財を〝わが法人〟名義にしていく……

そういうことがあまりにも多くまかり通った挙句に、ほんとうに寄進したい人たちの希望がかなわなくなってしまったような感触を得ました。

と同時に、全国のお寺が大打撃を喰らう法改正なのに、どなたも抗議の声を上げていらっしゃらないことも無念。

寺と法とお金

目下、「寺と法とお金」というテーマで原稿執筆中です。

極悪非道の人間をも改心させ救済するのが仏法であるのだから、正法と法律とは、対極にあるものです。

法秩序に忠実になりすぎれば、「予算にないことは執行できない」ということになり、大震災が起きても駆けつけることなどしづらくなります。

法秩序は、さかしく法を学び要件を無理にすり合わせて利益を得ようとするカシコイ人たちの味方となります。さかしくなく朴訥で、誰をも裏切ることなくただ日々を生きる弱者は、網の目に守られることなく、こぼれ落ちてしまうのです。

住職は、こぼれ落ちてしまう人々よりも学を積まれ博識で教養もお持ちなのだから、現実社会の法秩序を少し、学ぶべきです。学んでその趣旨と背景を汲みとったうえで、法を破るスレスレのところまで降りていって、法秩序に守られずこぼれ落ちた人々を救うべきです。

現実社会の法を破るスレスレまで降りてゆけるのは、正法(人として正しくあるべき道は守っている)という盾があるからです。

 

 

●更新記事をメールで購読

メールアドレスを記入して購読すれば、更新をメールで受信できます。

7人の購読者に加わりましょう

☞【新刊】『聖の社会学』イースト新書(907円+税)

・6月21日(水)曹洞宗埼玉県第一宗務所現職研修会にてお話しします。
・7月27日(木)曹洞宗東北管区教化センター教化フォーラムにてお話しします。
・9月4日(月)向島仏教会にてお話しします。
・9月15日(金)曹洞宗岐阜県宗務所青年会共催研修会にてお話しします。
・11月6日(月)曹洞宗有道会東京大会にて、パネラーとして登壇します。
・2018年6月5日~6日、関東総和会シンポジウムにてお話しします。
-----
【過去の情報】
・4月13日(木)埼玉県曹洞宗教化研究会にてお話ししました。
・3月27日(月)真言宗智山教化センター勉強会にてお話ししました。
・3月20日(月・祝)、築地本願寺和田堀廟所の相談カフェに参加しました(途中2回ほどセミナー登壇あり)。
・3月18(土)、19(日)の両日、10時~築地本願寺にてお話ししました。
・2月25日(土)浄土真宗本願寺派(西本願寺)東京教区芝組公開講座にて、大來尚順さんとお話ししました。
・2016年12月5日(月)テレビ朝日羽鳥慎一のモーニングショー「墓じまい特集」で取材を受けました。
・2016年11月27日(日)曹洞宗福島布教の会でお話ししました。
・2016年11月17日(木)日本生命GLAD推進室にてお話ししました。
・2016年10月23日(日)浄土真宗築地本願寺和田堀分院報恩講にてお話ししました。
・2016年7月20日(水)浄土宗西山禅林寺派(姫路地区)にてお話ししました。
・2016年7月11日(月)真宗興正派西讃教務所僧侶研修会にてお話ししました。
・2016年7月9日(土)江東区の「女性センター」にて、「シニア起業のすすめ~老後プランを起業が支える」を開催しました。後編は2016年8月20日(土)猪田昭一税理士による「事業計画書作成のツボコツ」です。
・JWAVE番組Jam the WorldのCase Fileという5分コーナー(21:25~21:30頃)で、6/26(月)~7/1(金)まで5日間、「派遣僧侶」についてお話ししました。
・2016年6月29日(水)曹洞宗福島布教の会にてお話ししました。
・2016年6月17日(金)千葉県曹洞宗青年会にて「宗教法人の相続の心得」についてお話ししました。
・2016年5月11日(水)昨年にひき続き、福岡県祖門会にてお話ししました。
・2016年4月8日(金)浄土宗教化研修会館オープニングシンポジウムに山折哲雄先生と出演しました。
・2016年2月27日(土)鳥取県行政書士会にて「葬儀から見た行政書士業務」についてお話ししました。
・2016年2月13日(土)池袋FPフォーラムにて、「額に皺の寄らない遺言相続」というテーマでお話ししました(ボランティア講師)。
・2016年2月9日(火)浄土宗青年会全国大会にて「競争原理の枷を外す“いいお坊さん”になろう」というテーマでお話ししました。
・2016年1月13日(水)永観堂にて禅林寺派研修にてお話ししました。
・2015年12月13日(日)宮城県曹洞宗青年会にてお話ししました。
・2015年11月27日(金)上尾市仏教会にてお話ししました。
・2015年10月30日(金)千葉県曹洞宗青年会にてお話ししました。

・2015年10月28日(水)曹洞宗学術大会にて、「寺院再編論」を発表しました。

・曹洞宗宗務長将来像策定分科会委員として、およそ2年にわたる第1~第2分科会の委員任期を終えました。
※特別座談会の模様はこちら

・2015年7月22日 東京都行政書士会 目黒・港・品川・大田支部合同研修にて、墓地と死後事務の最前線についてお話ししました。
・2015年6月23日 安中市仏教会にて「スマートな隠居~好々爺&キュートなおばあちゃんになろう!~②」という内容で、昨年にひき続きお話ししました。
・2015年5月22日 福岡祖門会にて、地域の核としてお寺を活かすには?という内容でお話ししました。
・2015年4月19日 安中市桂昌寺にて、檀信徒さま向けにお話ししました。